これまでに多くの中学受験生を見てきて,これだけは注意しておきたいと感じたことを述べます。受験情報は多くありますが,「中学受験をやめる」ことについて触れた記述は少ないようですので,ご参考になればと思います。
中学受験における危険性を一言で表すなら,「全く気づかないうちに精神的疲れが致命的なまでに高まる」ということに尽きます。
A ケース・スタディ
以下に書いてある症状は決して特殊なケースではありません。中学受験を目指しているほとんどの家庭で発生している状況だと考えられます。
1 調子のいい子
教える側から見ると,小学生はある意味素直なので,割と簡単にハイレベルな勉強のペースに乗せることができます。ところが,これが子供には大変な負担になっていることがあるのです。実際には8割方の小学生は表面的に調子を合わせているだけで,塾の先生や親が見ていないところでは,消しゴムを粉砕して遊んだり,漫画を読んだりと,およそ勉強とはかけ離れたことをやっています。
2 愁訴A 「うちの子は頭は悪くないんだけど,どうも落ち着きがない」
ここで親御さんがとる対策としては,「もうつきっきりで勉強させるしかない」……そして家庭教師登場と相成るわけです。このような家庭こそが(中学受験に限らず)大学生の家庭教師アルバイトのほとんどを支えているといっても過言ではありません。ところで,これで勉強するようになれば問題ありません。(もちろん,勉強するようにはなっても,よほど力のある先生でなければ学力をつけることは難しいでしょう。)
現実には,家庭教師をつけたぐらいではうまくいかない場合の方が圧倒的に多いのです。
3 愁訴B 「なんかあの家庭教師の先生,やさしすぎて子供はさぼっているみたい」
ここで親御さんがとる対策としては,家庭教師を変える,子供を叱りまくる……悪循環が始まります。家庭教師や親が終始ついて勉強するうちに,やがて子供に拒否反応が現れ,子供の精神状態は大変不安定になっていきます。それはまず始め,次のような形で現れます。
4 愁訴C 「以前には楽々と解けていたごく易しい問題が解けなくなっている」
ここで親御さんがとる対策としては,難関中学受験はあきらめる……のがいいのですが,実際にはそうはなりません。10分おきに,それこそ一行計算一題ごとにチェックを入れ,一方では優秀な家庭教師を探し,少しでもレベルの高い塾へ入塾させようと試験を受けさせ,そして何度も落ち,最終的には頼み込み,塾側も回数受験へのお情けで入塾させてしまったりします。
5 愁訴D 「塾でダントツ成績悪いんですけど」
別に本当に最下位なのではなくて,常に最下位を争っている,という状況になります。なぜなら同じような状況の子はどんな名門塾にも10人以上はいるからです。
6 愁訴E 「最近ぼーっとしているんですけど」
実は既に末期に至っています。この時点で子供はかなり疲れており,精神的ダメージが大きいため,難関中学はおろか,将来的にも高校入試や大学入試での挽回もおぼつかない状態になってしまっています。
では,どうすればよかったんでしょうか?