数ある科目の中で,小論文ほどつかみ所のないものも珍しい。だが,どんな小論文でも,優秀生の答案は限られたいくつかの内容に収束するのも事実。当学院の小論文科の基本方針は,
「論文はエンターテイメントであれ」
ということであり,読む人に何らかの感銘,驚き,喜び,納得……を与えねばならないと考えている。
そのためには論理性,論証力,比喩などの表現力が求められるが,これらは読者に感銘を与えるための手段に過ぎない。論文の根本は「サービス精神」だといっても過言ではないだろう。これなくしてはせっかくの論証力や知識は水の泡になる。
以下,東大や早慶の小論文を受験する人に,何らかの参考になればと思い,例題を考えてみる。
例題:'98東大後期「論文1」(文科各類共通)から
★ 課題文の要旨(原文は英語)
働く女性が増え,また科学技術が女性を家事から解放したため,夫婦の役割は均等化の方向に向かっているとする説がある。
ところが調査によると,専業主婦の家事労働時間は減少していない。また働きに出る主婦の場合には,家事労働時間は減少するものの,仕事と合わせた労働時間はむしろ増え,余暇を犠牲にしている。そして相変わらず,女性は家事のうち退屈で面倒な部分を押しつけられている。
従って家事に関しては夫婦の均等化は進んでいない。家電などの科学技術も,生活の向上に伴って増えた手間を吸収するに至らず,むしろ女性を家事に縛り付ける方向に働いている。
★ 設 問
次のア,イのいずれか一方の主張を選び,その主張を支持する議論を,筆者の論述を参考にして,700字以内の日本語で展開しなさい。句読点も1字に数える。
ア 今後の科学技術の進歩を考えれば,夫婦の家事分担は均等化する。
イ 今後の科学技術の進歩をもってしても,夫婦の家事分担は均等化しない。 |
さて,例によって,一見立派な解答に見えながら,危険だと思われる答案例を紹介しよう。もちろんあとで推奨する答案例も紹介する。これらは合格者・不合格者の学力傾向を踏まえ,私が特にでっち上げたものである。
読んでもらうとわかると思うが,「危険な答案例」といえども説得力があるし,おもしろい。受験生でこのくらい書ければ上出来だとも思われる。だが,東大では安心できない。これまでの経験から見て,私はこれらが不合格答案になるのではないかと思うのである。
その2 「危険な答案例と分析」に進む
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